2025年12月14日「その名はインマヌエル」

説教の要約

「その名はインマヌエル」マタイ1：18〜25

今年のアドベントは、先週まで二週にわたってヨハネ福音書の十字架の場面の御言葉が与えられ、私たちは改めて、聖書の御言葉においては、アドベントと十字架とが密接に繋がっていていることを確認したしました。主の十字架は、主の御降誕に私たちをフラッシュバックさせるのです。

実に、主イエスは、十字架で死んでくださるために、弱い肉体を持って誕生して下さったわけです。本日からは、一度、ヨハネ福音書連続講解説教を中断して、アドベント最終週、そしてクリスマス礼拝、と主イエスの誕生の経緯を描いたマタイ福音書の御言葉に聞いていきたいと思います。

主イエスの誕生の記録は、マタイ福音書とルカ福音書に記されていまして、ルカ福音書と同じように、ここでも、「二人が一緒になる前に、聖霊によって身ごもっていることが明らかになった」、という処女降誕の経緯が簡潔に記されています。

しかし、天使から直接神のメッセージを受けたマリアとはやはり違って、ヨセフは最初に疑い迷いました（19節）。しかし、その思い悩んでいたヨセフにも、「ダビデの子ヨセフ、恐れず妻マリアを迎え入れなさい。マリアの胎の子は聖霊によって宿ったのである。マリアは男の子を産む。その子をイエスと名付けなさい。この子は自分の民を罪から救うからである（20節）」、と言う神のご計画が明らかにされました。ヨセフはここで、マリアからの報告との答え合わせができたわけです。

この「イエス」という名前は、ヘブライ語の「ヨシュア」、という名前がギリシア語に置き換えられたもので、「主は救い」、という意味を持ちます。つまり、ここで天使は、その子を「主は救い」と名付けなさい、と言っているわけです。ですから、続いて、「この子は自分の民を罪から救うからである」、と「イエス」と名付けられるその理由が、明らかにされるわけです。

その上で、福音書記者のナレーションが入ります。「このすべてのことが起こったのは、主が預言者を通して言われていたことが実現するためであった。「見よ、おとめが身ごもって男の子を産む。その名はインマヌエルと呼ばれる。」この名は、「神は我々と共におられる」という意味である。（22、23節）」、ここで、「見よ、おとめが身ごもって男の子を産む。その名はインマヌエルと呼ばれる」、とありますのは、本日この礼拝の招きの詞で与えられたイザヤ書7：14からの引用です。

イザヤは、紀元前740年あたりから活動した預言者で、堕落したユダヤの民に悔い改めを叫び、神の言葉を取り継ぎました。そのイザヤの預言が、時を超えてイエスキリストの誕生によって今実現した、とこの福音書は証言するのです。この神の計り知れない歴史的な救いの御業が、ここでは預言と成就、と言うかたちで示されているわけです。

　その上で、この「インマヌエル」、という名前について「神は我々と共におられる」という意味である」、とこの福音書記者の解説が入ります。しかし、先ほどの節では、「その子をイエス「主は救い」と名付けなさい」、と天使が命じたはずです。それにもかかわらず、ここでこのイザヤの預言を引用して、その名はインマヌエルと呼ばれる。」この名は、「神は我々と共におられる」という意味である」、と聖書はこのように言うわけです。両者の名前の間に相違がみられます。一方は「イエス」すなわち「主は救い」、他方は「インマヌエル」、すなわち「神は我々と共におられる」であります。実は、これがとても大切なのです。これによって、先ほどの「この子は自分の民を罪から救う」、と謳われたイエスキリストが、どのような罪からの救い主であるかが明らかにされているからです。

すなわち、「主は救い」である方が、同時に「神は我々と共におられる＝インマヌエル」である、ということなのです。分かりやすく言い換えますと、イエス様は、我々と共におられることによって我々を罪から救う救い主なのであります。マタイは、これが言いたいのです（28：20を参照ください！）。

イエス様は、天という遠い場所から遠隔操作で、或いは魔法のようなもので私たちを救われるのではありません。私たちと全く同じ場所に立って私たちを救ってくださるのです。イエス様は、私たちと全く同じ肉体を持ってクリスマスの日この世に誕生されました。そして、貧しいナザレの大工として汗と埃にまみれて労働をして、当時罪人として軽蔑されていた人たちの友になって交わって下さったのです。すなわち我々と共におられることによって我々を罪から救う救い主、これは、イエス様ご自身が罪人になった、という事実です。永遠の神の御子が罪人と交わっただけでなく、罪人になってくださった、私たちと同じ罪人になって、私たちが受けなければならない裁きを全て受けて下さった、それが十字架です。罪なき方が罪人になって十字架で殺されたのです。

先週までの十字架の御言葉で確かに確認しましたように、このイエスキリストの誕生の記事で聖書は、すでに十字架を指し示しているのです。この主イエスの受肉と十字架の迫力の前に、処女降誕はその前提に過ぎません。特にこのマタイ福音書では、なんの不思議もない事実として処女降誕が淡々と扱われています。

　さて、天使の告知を受けた後のヨセフの姿が描かれています。

24、25節　ヨセフは眠りから覚めると、主の天使が命じたとおり、妻を迎え入れ、男の子が生まれるまでマリアと関係することはなかった。そして、その子をイエスと名付けた。

　もがき苦しんできたヨセフが、ここでは、「主の天使が命じたとおり」全く迷うことなくポジティブに行動している様子が記録されています。前述の通り、主イエスの誕生の記録は、マタイ福音書とルカ福音書に記されています。ルカ福音書はマリアの視点から、そしてこのマタイ福音書の方は夫であるヨセフの視点から描かれていて、ちょうど良い具合に調和しています。

　ルカは、神の恵に対してあくまでも受け身であるマリアの姿を描いていました。その頂点にある言葉が「わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身に成りますように（ルカ1：38）」このマリアの信仰告白でした。マリアは、ただ主の御業に委ねてその身を献げたのです。

　それに対して、ヨセフは、「主の天使が命じたとおり、妻を迎え入れ、男の子が生まれるまでマリアと関係することはなかった。そして、その子をイエスと名付けた（２４、25節）」、と積極的に行動しています。ヨセフは、その積極的な服従によって神のご計画と目的を達成するために用いられたのです。神の御業というのは、私たち人間と無関係に自動的に遂行されるのではありません。不十分であっても、私たち人間の手の働きが用いられて実現していくのです。これがヨセフの姿で証言されています。

今、新会堂建築のために、お一人おひとりが汗を流し、知恵を絞り、時には衝突もした日々を思い起こしたいのです。確かにその一つひとつが用いられたのです。大きな子ども部屋を作ったら、たくさん子どもたちも与えられたではありませんか。私たちは、ただ主に御業に委ねてその身を献げるあのナザレの乙女の信仰に目を向ける、と同時に、将来のために積極的に道を切り開いていったナザレの大工のポジティブな信仰にも、目を向けなければならないのです。

信仰者は天からの恵に貪欲になるべきです。私たちにこの会堂を与えて下さった主は、さらに多くの恵を与えてくださるはずです。いいえ、これから与えられる恵は、この会堂に満ち溢れ、やがてそのキャパを超えていくはずです。教会に求められているのは、現状維持ではなくて、What's Next?　なのです。私たちはいただいた恵を粗末にしてはなりません。今こそ、教会の門戸が大きく開かれて、まだイエスキリストを信じることができないで、永遠の命というこれ以上ない神様のプレゼントに漏れている方が、一人でも救いへと導かれますように、祈りつつ備えていきたいと思います。