2023年11月05日「パウロ暗殺の陰謀」

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パウロ暗殺の陰謀

日付
説教
木村恭子 牧師
聖書
使徒言行録 23章12節~35節

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夜が明けると、ユダヤ人たちは陰謀をたくらみ、パウロを殺すまでは飲み食いしないという誓いを立てた。このたくらみに加わった者は、四十人以上もいた。彼らは、祭司長たちや長老たちのところへ行って、こう言った。「わたしたちは、パウロを殺すまでは何も食べないと、固く誓いました。ですから今、パウロについてもっと詳しく調べるという口実を設けて、彼をあなたがたのところへ連れて来るように、最高法院と組んで千人隊長に願い出てください。わたしたちは、彼がここへ来る前に殺してしまう手はずを整えています。」
しかし、この陰謀をパウロの姉妹の子が聞き込み、兵営の中に入って来て、パウロに知らせた。
それで、パウロは百人隊長の一人を呼んで言った。「この若者を千人隊長のところへ連れて行ってください。何か知らせることがあるそうです。」
そこで百人隊長は、若者を千人隊長のもとに連れて行き、こう言った。「囚人パウロがわたしを呼んで、この若者をこちらに連れて来るようにと頼みました。何か話したいことがあるそうです。」
千人隊長は、若者の手を取って人のいない所へ行き、「知らせたいこととは何か」と尋ねた。
若者は言った。「ユダヤ人たちは、パウロのことをもっと詳しく調べるという口実で、明日パウロを最高法院に連れて来るようにと、あなたに願い出ることに決めています。どうか、彼らの言いなりにならないでください。彼らのうち四十人以上が、パウロを殺すまでは飲み食いしないと誓い、陰謀をたくらんでいるのです。そして、今その手はずを整えて、御承諾を待っているのです。」
そこで千人隊長は、「このことをわたしに知らせたとは、だれにも言うな」と命じて、若者を帰した。

千人隊長は百人隊長二人を呼び、「今夜九時カイサリアへ出発できるように、歩兵二百名、騎兵七十名、補助兵二百名を準備せよ」と言った。また、馬を用意し、パウロを乗せて、総督フェリクスのもとへ無事に護送するように命じ、次のような内容の手紙を書いた。
「クラウディウス・リシアが総督フェリクス閣下に御挨拶申し上げます。この者がユダヤ人に捕らえられ、殺されようとしていたのを、わたしは兵士たちを率いて救い出しました。ローマ帝国の市民権を持つ者であることが分かったからです。そして、告発されている理由を知ろうとして、最高法院に連行しました。ところが、彼が告発されているのは、ユダヤ人の律法に関する問題であって、死刑や投獄に相当する理由はないことが分かりました。
しかし、この者に対する陰謀があるという報告を受けましたので、直ちに閣下のもとに護送いたします。告発人たちには、この者に関する件を閣下に訴え出るようにと、命じておきました。」
さて、歩兵たちは、命令どおりにパウロを引き取って、夜のうちにアンティパトリスまで連れて行き、翌日、騎兵たちに護送を任せて兵営へ戻った。騎兵たちはカイサリアに到着すると、手紙を総督に届け、パウロを引き渡した。総督は手紙を読んでから、パウロがどの州の出身であるかを尋ね、キリキア州の出身だと分かると、「お前を告発する者たちが到着してから、尋問することにする」と言った。そして、ヘロデの官邸にパウロを留置しておくように命じた。

日本聖書協会『聖書 新共同訳』
使徒言行録 23章12節~35節

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説教要約 使徒言行録23章12-35節 説教題「パウロ暗殺の陰謀」

今日の説教箇所、ちょっと長いのですが、内容的には先週の続きです。
パウロは、最高法院での騒ぎから命が守られましたが、別の危険がありました。
12-13節、「夜が明けると、ユダヤ人たちは陰謀をたくらみ、パウロを殺すまでは飲み食いしないという誓いを立てた。このたくらみに加わった者は、四十人以上もいた。」
彼らがどんな立場の人だったのか、詳しいことはわかりませんが、少なくとも彼らは熱狂的なユダヤ教信仰、あるいはユダヤ教思想を持っており、自分たちの考えに反対する人に対しては、暴力で対抗しても構わないと考える人々です。主張を通すためには手段を選ばず、神のための行動だから正義だ!と考えるのでしょう。
彼らは祭司長や長老たちのところへ行き、パウロを詳しく調べるという口実で、もう一度、最高法院へ連れ出すよう願い出ました。そして、その途中でパウロを殺す計画を立てたのです。

この陰謀をパウロの姉妹の子が聞きつけました。では何故、兵営に甥が入ることができたのでしょうか?
パウロは最高法院で取り調べを受けましたが、有罪判決は受けていません。つまり、この時点でのパウロは、囚人ではないのです。しかも、ローマ市民権を持っているので、最低限の権利は与えられています。それで、親族との面会ができたようです。
別の見方をするなら、神は、パウロのローマ行きが実現するように、様々なことを整えておられ、ここではまず、ユダヤ人の陰謀からパウロが守られるよう取り計らわれたのです。陰謀の計画をパウロの甥がパウロに伝え、そこから百人隊長、千人隊長と伝えられたのです。

計画を知った千人隊長は、実に素早く対策を練り、命令を下します。計画が実行に移される前に、その夜のうちに、パウロをカイサリアへ連れて行くことを決め、実行に移したのです。
動員されたのは、歩兵200名、騎兵70名、補助兵200名、合計470名。またパウロは馬にのせられて、カイサリアまで護送されたようです。パウロにはローマの市民権があり、裁判の判決が出ていませんから囚人ではありません。ですからなおのこと、パウロを無事に護送する必要がありました。
暗殺の陰謀が事前に知らされ、パウロは、ローマの軍隊に守られて無事護送されたこと、ここにも神の配慮があったのです。

26-30節には、千人隊長クラウディウス・リシアが、ローマ総督のフェリクスあてに書いた手紙の文面が記されています。手紙には「彼が告発されているのは、ユダヤ人の律法に関する問題であって、死刑や投獄に相当する理由はないことが分かりました。」とあり、これが千人隊長の理解だったことがわかります。
そしてこの理解は間違っていません。
最後は34-35節。「総督は手紙を読んでから、パウロがどの州の出身であるかを尋ね、キリキア州の出身だと分かると、『お前を告発する者たちが到着してから、尋問することにする』と言った。そして、ヘロデの官邸にパウロを留置しておくように命じた。」
このようにして、パウロは暗殺者の陰謀から逃れることができました。

ですが、パウロの命を狙った40人のユダヤ人とはどんな人たちなのでしょうか。
当時のユダヤ教は、サドカイ派、ファリサイ派以外にもいくつかの派があったことが知られています。
有名なものではエッセネ派、それから熱心党と言われる集団の存在も知られています。
その中で、「熱心党」と言われる集団は、ユダヤ民族の独立を切望する人々で、彼らは手段を選ばず、暴力行為を使ってでも目的を遂げようと考える、当時の抵抗組織でしたから、もしかしたらこの一派の行動かもしれません。しかし、ここでも彼らの陰謀は、神の力によってとどめられたのです。

ところで、今起こっている、ガザでのハマスとイスラエルの戦争。
背景は宗教的、政治的、さらに経済的な問題も絡み合って、大変複雑です。ですが、彼らの行動は、手段を選ばず暴力行為、軍事力を使ってでも、自分たちの目的を遂行しようとしていると言えるでしょう。
そこには、今日の話に登場する40人のユダヤ人による陰謀とも共通した考え方が見え隠れしています。
特に、神の名を語りながら、しかし手段は選ばず、血で血を洗うような争いを行うこと。
常に犠牲になるのは幼い者や弱い立場の人々、という構図。このようなことを、まことの神はどう考えるだろうかと思うのです。きれいごとを言っても、そこには人間の罪があります。

ユダヤ教徒が信じる旧約聖書の神は、イエス・キリストを通して、ご自身をお示しになりました。それが新約聖書に記されています。イエス・キリストを通して示された神を信じる信仰がキリスト教です。
イエス・キリストを通して教えられていることを確認したいと思います。

①マタイ5:9平和を実現する人々は、幸いである、/その人たちは神の子と呼ばれる。
②マタイ 5:44 しかし、わたしは言っておく。敵を愛し、自分を迫害する者のために祈りなさい。
③ルカ 6:35 しかし、あなたがたは敵を愛しなさい。人に善いことをし、何も当てにしないで貸しなさい。そうすれば、たくさんの報いがあり、いと高き方の子となる。いと高き方は、恩を知らない者にも悪人にも、情け深いからである。
④ヘブライ12:14すべての人との平和を、また聖なる生活を追い求めなさい。聖なる生活を抜きにして、だれも主を見ることはできません。
⑤Ⅱコリント5:18 これらはすべて神から出ることであって、神は、キリストを通してわたしたちを御自分と和解させ、また、和解のために奉仕する任務をわたしたちにお授けになりました。

このような箇所を読むと、まことの神は、暴力を望んでおられないことがわかります。
キリストは、神と人との和解、そして人と人とが理解し合い、大切にしあうことを望んでおられるのがよくわかります。

また、先日行われた第78回定期大会で「平和の福音に生きる教会の宣言」が採択されました。
今、平和とは程遠い世界の現状を、私たちはキリスト者としてどうとらえ、又何ができるのか。
それがきちんとまとめてある宣言ですので、ぜひお読みいただきたいと思います。



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