2023年10月01日「あなたは立ち直ったら」

　私たちは、真（まこと）の神の独り子（ひとりご）イエス・キリストを信じていても、人に知られているか否かは別として、思い出すと胸が痛むような不信仰で罪深いことをしたことは、ないでしょうか。それについて、聖書はどう教えているのか。今朝は、そのことをルカ22:31以降から学びたいと思います。

　ここは、弟子のペテロがイエスを知らないと言って否定することを、予めイエスがペテロに告げ、警告されたことを伝える聖書箇所です。その結末も私たちは既に知っていますが、ここで私たちが教えられる一つの点は、私たち人間の惨めなまでの愚かさと弱さです。

　イエスは31節「シモン、シモン。見なさい。サタンはあなた方を麦のようにふるいにかける事を願って、聞き届けられました」と言われます。「シモン、シモン」と、ペテロ本来の生れながらの罪と弱さを持つ人間としての名前で、しかも敢えて2度繰り返してイエスは呼ばれ、ことの重みを強調しておられます。しかも「見なさい」とあり、大変強く警告しておられることが分かります。

　またサタンについて触れ、しかし、32節で「私はあなたのために、あなたの信仰がなくならないように祈りました」と、ご自分がペテロのために祈ることも約束され、更に32節「ですから、あなたは立ち直ったら、兄弟たちを力づけてやりなさい」と、先のことまで予めお教えになります。

　ところが、ペテロは自信に溢れ、33節「主よ。あなたとご一緒になら、牢であろうと、死であろうと、覚悟は出来ております」と豪語します。しかし、イエスは34節「ペテロ、あなたに言っておきます。今日、鶏が鳴くまでに、あなたは三度私を知らないと言います」と、ペテロの惨めな失敗をはっきり予告されます。これは後の54～60節が伝えますように、事実となります。

　ここに私たちは、ペテロに代表される私たち人間の悲しいまでの愚かさ、傲慢さ、そして弱さを、イヤという程知らされます。自分を見ているようで、胸が痛みます。イエスがこんなにも真剣であられるのに、ペテロの方は呑気というか、自分がどんなに弱く、信仰の薄い、脆い（もろい）者であるかが分かっていません。自分の生れながらの気の強さとか、結構、機転の利く頭の良さなどに自信があり、出来もしないことを出来るように思い込み、軽率にもそう言ってのける。

　けれども、自分の力を買いかぶり、それに頼る自信と傲慢さの結果は、サタンの攻撃の前には全く惨めな敗北でしかありません。サタンにとっては、自分を過信する自信家の人間を相手にすることは、赤子の手を捻る（ひねる）よりも簡単なのです。これ程やっつけやすい相手はありません。

　私たちは聖書のこの箇所を通して、自分の生れながらの、或いは、自分で努力して獲得したにせよ、自分の力を過信し、驕り高ぶること、自分を買いかぶることが、如何に危険で愚かであるかを徹底的に教えられます。箴言16:18は言います。「高慢は破滅に先立ち、高ぶった霊は破滅に先立つ。」同18:12も言います。「人の心の高慢は破滅に先立ち、謙遜は栄誉に先立つ。」

　そして決して上辺の謙遜ではなく、心底謙り（へりくだり）、全知全能の神の御力と助けと憐れみにのみ、自分の拠って立つ一切の信頼を置くことの決定的重要性さを教えられ、軌道修正されます。本当に感謝なことです。イエスは山上の説教の冒頭でこう言われました。5:3「心の貧しい者は幸いです。天の御国はその人たちのものだからです。」

　以上、一つの点を見ました。この箇所で教えられるもう一つのことがありますので、それもご一緒に見たいと思います。それはこういうことです。

　私たちは、クリスチャンであっても、この時のペテロのように本当はまだまだ信仰が弱く、愚かな所の多い、つまり、罪の残り滓の一杯ある者です。しかし、それにも関らず、主イエスは私たちを見捨てず、こんな私たちのために天の父なる神に執り成し、しかも私たちの情けない罪や失敗をも用い、他の人が真の神に立ち帰り、救われるように、私たちを役立たせて下さるということです。

　イエスはペテロに言われました。32節「しかし、私はあなたのために、あなたの信仰がなくならないように祈りました。ですから、あなたは立ち直ったら、兄弟たちを力づけてやりなさい。」

　第一にこの時、イエスがどういう状態でペテロのために取り成されたかを心に留めたいと思います。この時、イエスはどんな状態だったでしょうか。何と主は、この数時間後にはユダヤ教権威者たちに捕えられ、一方的な裁判にかけられ、鞭打たれ、残酷な十字架で殺されようとしておられました。人間的には最悪の状態であり、イエスはその全てを分っておられまし。私たちなら、パニックに陥り、自分のことしか考えられず、泣きわめいていないでしょうか。

　しかし、そんな中でも、主はペテロのために祈られました。そんな状態にあってさえ、主はご自分の民をどこまでも愛し、執り成され、そしてそれを天の父なる神はお聞き下さるのです。

　この後、ペテロは、22:57､58､60が伝える通り、「イエスを知らない」と三度繰り返し否定し、イエスを裏切る恐ろしい罪を犯します。けれども、彼はやがて立ち直ります！恐るべき信仰の破船（Ⅰテモテ1:19）から守られるのです。

　こんな切羽詰まった状態でのイエスの祈りが聞かれたのであるなら、今、天の父なる神の右に座して、私たちのための憐れみ深い大祭司として、日夜、執り成して下さっているイエスの祈りは、どれ程、聞かれることでしょう！ですから、自分でも自分を赦せないような、どんなに情けない罪を犯し、失敗しても、私たちは決して自暴自棄になってはいけません。主イエスが執り成しの祈りを私たちのために捧げて下さっていることを、是非、直ちに思い起したいと思うのです。

　ここで一つ注意しておきます。イエスは「サタンがペテロをふるいにかけないように祈った」とは仰って（おっしゃって）いません。ですから、私たちもサタンのふるいにかけられないわけではないのです。脅かし、脅迫、罪の誘惑に遭い、とんでもない罪を犯し、失敗もする。しかし、それは決して主イエスの執り成しの祈りを無効にすることは出来ません。はっきり言って、どんなにサタンが私たち信仰者を攻撃し、罠を仕掛け、陥れたとしても、主イエスの執り成しの方が遥かに強く、天の父は御子イエスの執り成しの祈りを絶対に聞かれるのです！鍵はイエス・キリストです！ですから、失敗して落胆と絶望のどん底にいても、尚もイエス・キリストを見上げ、イエスを信じ、依り頼むその信仰が決定的に重要なのです。

　とにかく、ペテロのためのこういう祈りに、他ならぬ私たちのためのイエスの執り成しの祈りに気付き、イエスに頼ることの出来る人は幸いです。その人は、事実、守られます。そのために、ルカはここを伝えるのです。

　もう一つ心に留めたいことは、こうして立ち直りを許されるペテロへのイエスの温かい期待の言葉です。

　ペテロはとんでもない失敗をします。主イエスにも仲間にも顔向けできない罪です。しかし、イエスはそんな彼に、32節「あなたは立ち直ったら、兄弟たちを力づけてやりなさい」と言われます。ここにイエス・キリストを信じる者の大きな光栄と幸いがあります。

　情けない罪を犯し、神の御名（みな）を汚し、人を躓かせて（つまずかせて）良いのではありません。けれども、万一そうしてしまったとしても、私たちは直ちにそれで全く駄目な者になったのではありません。主は、そういう者をも尚、清い神の国の奉仕者として、つまり、人が究極の幸せに与ることが出来るためにお用いになります。それは主イエスにとって、恥ではなく、光栄なのです。

　皆から軽蔑される愚かな罪を犯し、大失敗をし、ただ主の憐れみにより辛うじて立ち直りを許された者が、今度はその経験を生かし、同じように弱い他の兄弟姉妹を思い遣り、温かく力付け、その立ち直りに手を貸すこと！これを主は期待なさり、大切な役割を与えておられるのです。主にあっては、失敗や罪すらも空しくない。私たちがクリスチャンであるとは、これ程のことであり、ここまで私たちは神の絶大な愛と赦しの恵みの中に入れられているのです。

　32節「あなたは立ち直ったら、兄弟たちを力づけてやりなさい。」

　私たちの罪や失敗をもご自分の十字架の故に赦し、それに加え、他の大切な人たちの救いのためにそれをも用いられる主の愛と慈しみに励まされ、私たちもますます互いに励まし、力付け、支え合っていきたいと思います。